「愛されてるねえ、凪沙」

真梨がにやにや笑って言ってから、

「いいなあ、私も彼氏ほしいなあ」

と両頬を押さえながらぼやいた。

「三島くんみたいに、毎日何回も愛を囁いてくれる優しい溺愛彼氏!」

「いや、優海のは囁きじゃなくて雄叫びみたいなもんだから。うるさいし迷惑だから、真梨はもっと物静かで落ち着いた彼氏のほうがいいよ」

私が即座にそう言うと、真梨と黒田くんが声をそろえて笑った。

当の本人は周りのやりとりなど聞こえていないのか、教科書とにらめっこしている。相変わらずの集中力だ。

優海はあまり要領の良いほうではないし、基本的にのんびりしているので、勉強は得意ではない。

中学の時もいつも平均点以下で、苦手科目はクラスの最低点に近い点数ばかりとっていた。

それでも、中堅進学校と同レベルの偏差値が必要な水津高校普通科に入れたのは、この集中力のたまものだ。

私がここを受けると決めた中三の夏、優海は『俺も凪沙と同じ高校に行く!』と宣言した。

先生や友達みんなから『無理だから諦めろ、無難なところを受けろ』と止められたのに聞かず、部活を引退して以降、毎日朝から晩まで勉強しつづけ、最後には先生も驚くほどの成績急上昇を遂げて本当に合格してしまったのだ。