俺はよろよろと立ち上がり、自分の桜貝と凪沙のそれをくっつけた。

世界にたったひとつだけの、ぴったり同じ形のかたわれ。

離れ離れになってしまっていたふたつのかけらを、もう二度と離れないようにしっかりと重ね合わせる。

ひとつになった貝殻を握りしめたまま、おぼつかない足どりで歩き、窓を開けた。


海が見える。

風が吹いている。

波がさざめき、雲が流れて、鳥が飛んでいく。

凪沙がいなくなった世界も、相変わらず綺麗だった。


俺はここで生きていかなくちゃいけない。

寂しい、悲しい、苦しい。

でも、生きなくちゃいけない。

それが凪沙の願いだから。

俺のしあわせを、凪沙が祈ってくれたから。


大丈夫、生きていける。

凪沙のくれた愛があるから。

海のように深い愛を胸に、風のように果てしない優しさを胸に、俺は凪沙のいない世界で幸せになってみせる。


心の中の凪沙に、そう誓った。



【完】