残された俺は、携帯電話と提灯を前に呆然と座っていた。

凪沙はどうしてこんなものを俺に残したんだろう。

どうしていいか分からず、とりあえず携帯電話の電源ボタンを押してみる。

すると画面が点灯した。

でも、ロックがかかっていて暗証番号を打ち込まないと開けないようだった。

ますますわけが分からなくて、俺は携帯を置いて今度は提灯を見た。

海と空と砂浜の絵。

優しい色合いがとても凪沙らしかった。

中学のころの美術の授業で、絵は苦手だと文句を言いつつも熱心に描く凪沙が可愛らしかったのを思い出して、ふっと笑みが洩れた。

視線をずらして、海の絵の横にピンク色の貝が描かれているのを見た瞬間、ぐっと涙が込みあげてきた。

寄り添う二つの貝殻は、綺麗な左右対称で、お互いが唯一の特別の存在だと分かる。

これを描いたときの凪沙の気持ちを思って、俺はまたしばらく泣いた。


涙の波が引いてきて、提灯を見つめ直したとき、あるものに気がついた。

桜貝の絵の下に、ひっそりと書かれている青い文字。

よく見ると、それは四桁の数字――俺の誕生日の日付だった。

ぼんやりと眺めてから、はっと気がつく。

俺は慌てて凪沙の携帯電話を手に取り、震える指でその数字を打ち込んだ。

「あ……!」

ロックが解除された。


表示された画面は、メモ帳だった。

『優海へ』

という文字が飛び込んできて、心臓が大きく弾んだ。

凪沙が俺を呼ぶあの優しい声が、鼓膜に甦った。

『アルバムにいいものがあるから、見てみてね』

たった一文だけのそっけないメッセージ。

凪沙らしい。