嫌だ、と思った。

俺は凪沙がいないと生きていけない。

凪沙を失った人生になんて意味はない。

生きていたって意味がない。

この世界にはもう凪沙がいないなら、俺が凪沙のいる世界に行くしかないじゃないか。


そう思ったとき、タエさんが俺の手に何かを握らせた。

「なぎちゃんにね、頼まれとったんよ。亡くなる前の晩にね、祭りが終わったら優海くんに渡してほしいって」

目を落とすと、俺の掌の中にあったのは凪沙の携帯電話だった。

わけが分からず、俺は首をかしげてタエさんを見つめる。

「それともうひとつ、提灯に凪沙が描いた絵を見せてって言ってねえ」

タエさんが抱えてきた風呂敷包みから、龍神祭の提灯を出してきた。

俺は呆然とそれを受けとる。

「今思い返すと不思議やねえ……。あの子はもしかしたら、なんか分かっとったんやないかと思ってまうよ……。自分が死ぬことを知っとったみたいにねえ、優海くんに渡したいものをばあちゃんに頼んで、逝ってしもうたんよ」

タエさんが目尻の涙を拭いながら言った。

「さて、ばあちゃんは家に戻ろうかね。なぎちゃんが寂しがるといけんからね……」

そう言って、タエさんは俺に手を振って帰っていった。