海沿いの道を自転車で走りながら、手首の腕時計をちらりと見て時間を確認した。

優海との待ち合わせ時間まで、あと二十分。

彼の家までは五分とかからないのに、こんなに早く家を出たのには、もちろん理由があった。


もう一度時計を見る。

そろそろだな、と海へ視線を向けた。

堤防の先端のほうで一心に海を見つめながら釣竿を動かしている男性。

その後ろでじゃれあっている幼い兄弟。

彼らは追いかけっこを始め、こちらに向かって走ってきた。

父親は彼らが離れていくことに気がついていない。

せめてライフジャケットを着させていれば。

でも、それは今さら思っても仕方のないことだ。


さあ、と心の中で自分に掛け声をかけた。

目を閉じて、胸許の桜貝を握りしめる。

深く息を吐いてから、ゆっくりと瞼をあけた。


自転車を放り出して防波堤の階段を降り、船着き場を駆け抜ける。

堤防に向かって一直線に走る。

男の子がつまづき、弟に追い付かれそうになって、体勢が整わないまま慌てて方向転換する。

勢い余ってよろけて、足を踏み外し、堤防から落下する。

私は驚いて泣き出した弟の側まで必死に走り、そのまま海の中へと飛び込んだ。