これでもう大丈夫だ、と思った瞬間、糸が切れたように身体に全く力が入らなくなって、もう一ミリも動けなくなった。

空気を求めて開いた口の中にごぽりと大量の水が雪崩れこみ、そのまま喉へ気管へ肺へと流れこんでいった。

そこで私の意識は途切れた。


次に気がついたとき、私は身体を失い、ゆらゆらと宙を漂っていた。

自分がどうなったのかも、何をしているのかも、どこにいるのかも分からなくて、ただぼんやりと浮いていた。

ただ、遠くに目映い光があって、あそこに行くべきなのだということは分かった。

ふわふわとそちらへ向かおうとしていたとき、ふいに何かが弾けたような感覚があり、すると突然強い風が吹いて、私は一気に押し流された。

運ばれた先は、優海の家だった。


だんだん頭がはっきりとしてきて、私は優海を探して家の中をさまよった。

そして、薄暗い部屋の隅に彼を見つけた。

身体のどこにも力が入っていないように、ぐにゃりと不自然に身体を折り曲げて、半分倒れこむように壁に背をもたれて座っていた。

まったくなんの感情もないまっさらな顔をして、呆然と口を半開きにしたまま、瞬きさえしていなかった。

死んでいるんじゃないかと思ったけれど、指先がぴくりと動いたので、生きているのだと分かった。


生きているけれど、死んでいる。

そんな言葉がぴったりだった。


ああ、こんなふうになってしまうのか、と思った。

私が死んだら、優海はこんなふうになってしまうのか。

これではきっと、生きていけない。

優海はこのままでは、もう生きていけない。


力なく開いた優海の掌には、桜貝のかたわれがのっていた。

それを見た瞬間、嵐のような後悔が私を襲った。