一度海面にあがって大きく息を吸い込んでから、底に向かって一直線に潜り、男の子の腕をつかんだ。

すでに意識を失っていたのか、力の全く入っていない身体だった。

そのまま一気に海面に上昇しよう、と思っていた。

でも、服を着たまま泳いで他の人の身体を引っ張りあげるというのは、ひどく難しいことだった。

もがいてももがいてもほとんど前に進めなくて、少しも上がれなくて、さっき飛び込んできたばかりの海面が驚くほど遠く思えた。

息が苦しくて、頭に靄がかかったようになって、パニックになっているのを自覚した。

空気が欲しくて欲しくて気が狂いそうだった。

一瞬、この手を離せば楽になれる、と思った。

でも、海中を力なく漂っていた幼い身体と、泣きじゃくっていた男の子の顔が目に浮かんで、離せなかった。

気の遠くなるほど長い時間、まとわりついて押し潰して沈めようとしてくるように感じる水の中であがき、やっとのことで海面が見えてきた。

そのとき、大量の泡とともに大きな影が飛び込んできた。

男の人だった。たぶんこの子のお父さんだろう、と思った。

彼は必死の形相で、私が手をつないでいた男の子の身体を抱え込み、すぐに上がっていった。