「事故……?」と優海が眉をひそめる。

それはそうだろう。

もうすぐ事故で死ぬ、なんて、わけが分からないことを言っている自覚がある。

でも、本当のことなのだ。

「あのね……優海」
「うん……」
「今から私、すごい変な話するよ。ありえない話。でもね、本当のことなの。信じられないかもしれないけど、でも」
「信じるよ」

私の言葉を遮るように、優海は言った。

「信じる。俺は凪沙の言うことならなんだって信じる」

私は思わず笑いながら、心の中で少し呆れた。

だから言ったじゃん。

そんなだから、あんたは――。

「絶対信じるから、話して」

優海が私の手を痛いくらいに握りしめながら言った。

私はこくりと頷いて、海のほうへ目を向ける。

赤みを帯びてきた太陽が、少しずつ水平線へと沈もうとしていた。

風が吹いて海のにおいが濃くなる。

私はゆっくりと瞬きをしてから口を開いた。

「私ね……もう死んでるの。一回死んだの」

隣の優海が身じろぎするのが分かった。

私は彼の手を握り返し、微笑んで言う。

「龍神様の祭りの日……、私は死んだの」

優海が眉根を寄せた。

「どういうこと……祭りは明後日だろ?」
「そう。明後日の祭りの日に、海に溺れて死んだの」
「……え?」
「だから、今の私は、たぶん……幽霊ってやつなんだと思う」

優海が目を見開き、呆然と私を見た。

「一度死んで、幽霊になって戻ってきた、って言ったら分かりやすいかな……」


誰にも言わなかった、言えなかった話を、私はぽつぽつと語りはじめた。