「凪沙がまたねって言ってくれるのを聞くたび俺は、凪沙とまた会える、嬉しい、って思ってた」

ぐ、と優海の手に力が入った。

「凪沙は、凪沙だけは絶対に俺の前から消えたりしないんだって……明日になったらまた会えるんだって……よかった、って思ってたんだ」

目の奥がぎゅっと引き絞られたように痛んで、目頭が熱くなった。

知らなかった、優海がそんなことを考えていたなんて。

自分が別れの言葉を言わないようにしていたなんて。

家族を突然の事故で失ってしまった彼に、無意識のうちに伝えようとしていたのかもしれない。

私はいなくならないよ、と。

それなのに。

「なのに、なんで今、ばいばいって言ったんだ? 『また』がないってことか?」
「………」
「もう会えないから、今日でお別れだから、またねって言わなかったんじゃないのか?」

そんなつもりは全くなかった。

いつもと同じのように振る舞っていたつもりだった。

でも、私のことに関してだけ敏感で鋭い優海は、些細なことがきっかけで気がついてしまったのだ。

優海には、優海だけには、嘘はつけない。

ごまかしはきかない。

じわりと視界が滲んだ。

「どういうことだよ……もしかして凪沙、どっか行っちゃうのか?」

優海の苦しげな表情と絶望的な声と震える手が、私の我慢を決壊させた。


しぬの、と私は囁いた。

でも、声にはならず、微かに私の口許の空気を震わせただけだった。