家までの道を、無言のまま歩く。

背後の優海も黙々とついてくるだけだ。

よかった、何か言われたら決心が鈍ってしまっていたかもしれない。


玄関の前について、ふっと息を吐いたあと、勢いよく振り向いた。

優海が瞬きもせずにじっとこちらを見ている。

私も同じように見つめ返してから、ゆっくりと口を開いた。

「……じゃあね、優海。ばいばい」

それと同時に踵を返して、玄関を開けようとした。

その瞬間、駆け寄ってきた優海に手首をつかまれた。

「なんだそれ」

見たこともないほど険しい顔つきで、優海が私を見ていた。

逸らすことなどとうていできないほど、強いまっすぐな視線。

「どういうことだよ、凪沙」
「は……?」

彼の手を振り払おうと、力をこめて腕を引いたけれど、びくともしない。

「今、ばいばいって言ったよな? なんでだよ」
「なんでって……別れ際だからだよ。普通じゃん」

そっけなく答えた瞬間、「違う!」と叫び返されて、肩がびくりと震えた。

優海がこんなに声を荒らげたのを聞くのは初めてだった。

「普通じゃない……凪沙はいつも、じゃあまた、って言うだろ!」
「え……」

絶句する私に、優海は確信に満ちた口調で断言した。

「凪沙は、今まで一回も俺に、ばいばいなんて言ったことない」

驚きを隠せなかった。

そうだっただろうか。自覚がない。

ごまかす言葉が見つからなくて黙っていると、優海の顔が徐々に歪んできた。