「凪沙、見て見て」

また自分の考えの中に沈んでいたとき、ふいに優海に呼ばれた。

目を向けると、にいっと笑って歯を剥き出しにする。

見ると、歯も歯茎も真っ黒に染まっていた。

一瞬止まってから「ガキか」と肩をすくめてやると、「びっくりしたー?」と嬉しそうに笑う。

「しないよ。優海がいかすみパスタ頼んだときから、どうせやるんだろうなと思ってたし」
「マジかー。凪沙は俺のことなんでも分かっちゃうんだなー」
「あんたが単純だから分かるだけ」
「またまたー」

優海はいつでも、何を言われても楽しそうだ。

前にそう言ったら、『凪沙といるだけで楽しいからだよ』と答えられてリアクションに困ったので、もう訊かない。

「ふー、腹いっぱい。ごちそうさま」

食べ終えた優海は、手を合わせて軽く頭を下げた。

少しして私も食事を終えて、伝票を持ってレジに向かう。

会計を終えて立ち去るとき、優海はレジ係のおじさんに笑顔を向けた。

「ごちそうさまでした! 美味しかったです」

おじさんは一瞬目を丸くしてから、「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。

こういうチェーンのファストフード店で、『ごちそうさま』だけでなく『美味しかった』まで言う人を、私は優海以外に見たことがない。

だからいつも少しびっくりされるのだけれど、そんな優海を尊敬するし自慢にも思っている。