サラダを取り分けていると、優海が隣のテーブルの子どもに向かって「ベロベロバー」と舌を出して笑わせていた。

相変わらずだなあ、と微笑ましく思うと同時に、優海は自分の子どもが生まれたらすごく可愛がるんだろうな、と思って胸がちくりと痛んだ。

きっと私がその姿を見ることはない。

「凪沙、どした?」

トングでレタスをはさんだまま物思いに耽っていた私を、優海が心配そうに覗きこんできた。

私は笑みを浮かべ、「なんでもない」と首を振る。

「ちょっと考えごとしてた」
「ふうん?」
「シーザーサラダのシーザーってどういう意味かなって」

今まさに取り分けているサラダを指差しながら適当にごまかしを言うと、優海がきょとんとした顔をした。

「え、凪沙知らないの? あれだよ、沖縄の家とかに置いてある犬みたいなやつ!」

予想外のおバカな答えに、私は呆れを通り越して噴き出した。

「何言ってんの、あれはシーサーでしょ。これはシーザーサラダ」
「えっ、あ、そうなの? そういえばそうかも」
「もー、ほんとバカなんだから……」
「えへへ、恥ずかしー」
「ま、いいんじゃない? 優海はそれで」
「お、珍しい。いつもはもっと勉強しろって言うのに」
「や、勉強はしたほうがいいけど。まあ誰も優海に知識は期待してないから、たまにはおバカなこと言ってみんなを笑わせてあげればいいんじゃない?」
「なるほど! 俺のバカにもそんな利点が!」