それが歯がゆくて、私はなおもしつこく続けた。

「あんなに優しくて仲良しだった優海の家族は死んじゃったし、私の父親だって私の物心つくまえに死んじゃったし、母親なんかあっさり子ども捨てて男と蒸発して、顔も覚えてない。ひどいことしかないじゃん。そんなんで神様なんか信じられるわけない」

私の言葉に少し首をかしげた優海が、

「でもほら、見て、凪沙」

と笑って指差したのは、窓の外だった。

風のように過ぎ去っていく線路沿いの建物や木々のずっと向こうに、光る海がある。

夏の陽射しを受けて光を散らす海面、海を青く染めている果てしない大空、悠々と飛んでいく海鳥、水平線から生まれたようにもくもくと湧きあがる入道雲。

見ているだけで心の荒波が凪いでいくような、穏やかで美しい景色。

「綺麗だなあ。夜の海も、星も月も綺麗だよな」
「うん……」

優海がなぜ急にそんな話を始めたのか分からなくて、私はあいまいに頷いた。

「俺さあ、海とか青空とか、月とか星空とか見るたび、あーなんて綺麗なんだろうって感動するんだ。あんなとんでもなくでっかくて綺麗なものって、人間には絶対作れないだろ。あーやっぱ神様っているんだな、神様が作ったんだなって思うんだ」

あまりにも純粋な言葉に、私はもう何も言えなくて、眩しそうに目を細めながら愛おしげに世界を眺める優海の横顔をただ見つめていた。