男は腹立たしげにガラス越しに舌打ちをしてから、猛スピードで走り去った。

「さ、行こうか」

優海は何事もなかったかのように言うと、放り投げた荷物を広い、おじいさんに会釈をして、すたすたと駅のほうへ歩き出した。

当の本人である優海は、平然としている。

でも、私はだめだった。

優海を追って一歩踏み出した瞬間、涙腺が崩壊した。

うう、と嗚咽を洩らしながら涙を流していると、優海が驚いたように振り向いた。

「えっ、凪沙! どうしたの、どっか怪我した?」

してないよ、と答えたいのに、涙が邪魔をして声が出せない。

自分のことよりも私を心配する優海が優しすぎてつらくて、さらに涙が込みあげてきた。

「凪沙……」

優海がおろおろしながら私の手を握る。

子どもみたいにぼろぼろ泣きながら優海の手を握り返し、試合に遅れてはいけないのでとりあえず駅に向かって歩く。

「凪沙、怪我はしてないんだよな? どうした?」
「……くやしい……」

嗚咽をこらえながら、なんとか言葉を絞り出した。

「なんで、どうして、あんなやつが運転なんかするの? あんなやつがいるから事故が起きて死んじゃう人がいるんだよ。ありえない、許せない、悔しい……!」

とめどなく溢れる涙で目の前が滲んでいく。

「なんであんなクズがのうのうと生きてて、優海の家族が殺されなきゃいけなかったの……」

歪んだ視界の中で、優海が困ったように笑った。