「父ちゃん、母ちゃん、広海、久しぶり。なあ、今日は凪沙が来てくれたよ。嬉しいだろ」

優海は墓石に向かって、まるでまだそこに彼らが生きているかのような屈託のない笑顔で語りかけた。

「知ってると思うけど、凪沙と俺、付き合ってるんだー。俺にはもったいないくらい出来た彼女だけど、絶っ対凪沙のこと大事にするから、だからいいよな」

優海が墓石に柄杓で水をかけ、スポンジでこすり洗いをしながら楽しそうに話している。

家のリビングで家族とおしゃべりするのと何も変わらない様子で。

「今日はさ、これからバスケの試合なんだ。期末テストがやばくてさ、もしかしたら赤点で試合に出れないかもしれなかったんだけど、凪沙に活入れられて勉強教えてもらったおかげでなんとか点数とれて、スタメンで出してもらえることになったよ。ほんと凪沙すげーだろ。俺の恩人! 自慢の彼女なんだー」

私は優海の話を聞きながら、花瓶に入っていた枯れかけの花を取り除き、古くなった水を排水溝に捨て、軽くすすいで新しい花を生ける。

それから線香に火をつけて、おばあちゃんが作ってくれたおはぎと一緒にお供えした。

優海と並んで手を合わせて、しばらく言葉もなく目を閉じていた。

優海はどんなことを思っているんだろう、と思いながら。

瞼をあけて隣を見ると、ひとり祈りつづける優海の横顔ごしに、青空へ細くのぼっていく線香の煙がゆらゆら揺れていて、それを見たらなんだか無性に悲しくなった。