そのときの優海の笑顔を思い出すと、胸が苦しくなって、私は抱きつく腕にさらに力をこめた。

「……ねえ、優海」

彼はいつものように「んー?」と答える。

「好き」

ふはっ、と優海の笑う声がその胸にこだました。

「知ってる」

かなわないな、と思った。

優海にはかなわない。

結局昔から、私はいつも彼にかなわないのだ。

腹が立つこともあるけれど、その笑顔を見たらすぐに許してしまう。

何か悲しいことがあっても、その優しさに触れたらすぐに忘れてしまう。

私にとって優海はそういう存在なのだ。

しばらく抱き合っていたら、優海がふうっと深く息を吐いた。

目をあげて見ると、瞼を閉じて安堵の表情を浮かべている。

「はあ……もうマジでだめなのかと思った……」
「……ごめん」
「いいよ、もう。来てくれたから」

ぎゅっときつく抱きしめられる。

心地よさにふふっと笑いが洩れた。

「でもさあ、もー、なんで別れるとか言ったんだよー! 死ぬかと思った! 俺のこと大好きなくせに!」

唐突に優海が叫んだ。

「えー? んー、それは内緒」

私は笑いながら首をかしげる。

「内緒かよ!」
「女心は複雑なの。それに思春期の心は揺れ動くものなの」

本当のことなど言えるわけがないから、適当なことを言ってごまかす。

でも、自分が女心に疎いことを自覚している優海は、それで納得したのかそれ以上何も言わなかった。