「急がないと遅刻するよー!」

空に向かって叫ぶ。途方もなく大きい夏の青空は、ちっぽけな私の声なんて一瞬で吸い込んでしまった。

国道まで戻り、人けのない歩道を二人並んで走る。

再び風に吹かれて、頬を撫でていく爽やかな涼しさに私は目を細めた。


このまま海沿いに自転車で十五分ほど北上していくと、C半島を縦断する私鉄の駅がある。

そこから国道は海沿いから線路沿いに変わって、さらに三十分ほど走る。

すると市境を越えて、やっと私たちが通う水津高校にたどり着くのだ。


鳥浦町のあるT市は海と民家と小さな商店ばかりの寂れた町だけれど、半島の中心に位置するS市は、隣市とはいえずいぶん景色が違う。

中心部の駅や国道の周りにはたくさんの飲食店やコンビニがあって、娯楽施設や総合スーパー、大型のショッピングモールまである。

鳥浦の人たちの『街に出る』は、このH市の中心部に来ることを言っている。大きな買い物や遊びはいつもここだ。


中学のころまでは鳥浦の学校に通っていたから、この街はすごく遠くに感じていて、遊びや買い物で出かけるのは一大イベントで年に数回の楽しみだったけれど、

この四月から街の高校に通うようになって三ヶ月、さすがに慣れて物珍しさもなくなってきた。

むしろ今は、鳥浦に帰り着いたときにほっとするようになっている。