うつぶせになって腕に顔を埋める。

行かない、絶対行かない。

そう自分に言い聞かせていたときだった。

ひとつの光景が瞼の裏に浮かんできた。


寒々しい月明かりに照らし出された誰もいない海岸。

その片隅で、優海がひとり、膝を抱えて座っている。

広い広い砂浜に、ひとりで。たったひとりで。

ぽつんとうずくまる背中。


ぐっと胸が苦しくなった。

家族を失ってしまった優海を、決してひとりにはしないと自分に誓っていたのに、私は結局彼をひとりにしてしまっている。

そう思い当たってしまった瞬間、もうだめだった。


私は勢いよく立ち上がり、壁のカレンダーをめくった。

真っ赤なペンで印をつけた、『運命の日』。

この日までに成すべきことを決めた。

何があってもやり遂げると決めた。

そして、それを実現するためにここまで来た。

それなのに、優海は今、ひとりで私を待っている。

私はなんのために彼と離れる覚悟を決めたのか。

彼のためになると思っていたことが、本当は彼のためにはならなかったのか。

分からない。分からないけれど、今私がすべきことはひとつだと思った。