「あっ、すみません」

優海がおじいさんに頭を下げる。

おじいさんは「若いねえ」と笑って戸を閉めた。

「………」
「………」

ふたり残されて、気まずさに黙りこむ。

このまま去ろうと思っていたのに、優海のバカ、と心の中で悪態をついた。

「……あのさ、凪沙」

もう一度呼ばれて、私はつっけんどんに答えた。

「……なに」
「やっぱり俺、このままとか嫌だ」
「は?」
「別れたくない」

きっぱりとした言葉に、動悸が高鳴る。

ここまできてそれでもまだ勝手に喜んでしまう私の心、どうしようもない。

「前にも言ったけど、凪沙じゃなきゃだめだ」

まっすぐな言葉が次々に飛んできて、胸に突き刺さる。

私はうつ向いて唇を噛み締めた。

「凪沙がいない人生とか考えられない」

だから、だめなのだ。

だからこそ私は優海と離れることにしたのだ。

「……私は、優海じゃなくてもいい。優海がいなくても生きていける。優海がいない人生でもいい」

下を向いたまま答えた。