「……分かった」

優海はゆっくりと頷いた。

「ありがと。じゃ、また」

私はくるりと踵を返して、家の方向へと歩き出した。

誘惑に負けてしまいそうな自分を、優海の眼差しを求めてしまいそうな自分を叱咤して、崩れかけたアスファルトに落ちる影だけを見ながらずんずん歩く。

もう振り向かない。

もう二度と振り向かない。

これでもう終わり。

これ以上優海の優しさに甘えたりしない。

同じ過ちは繰り返さない。

呪文のように心の中で繰り返していた、そのときだった。

「――凪沙!!」

住宅地の真ん中に響き渡る声。

驚いて立ち止まってしまった。

「凪沙、待って!!」

あまりの大声に、近くの家の玄関からおじいさんが顔を出した。

「ご、ごめんなさい! なんでもないです、うるさくしてすみません」

ぺこぺこ謝りながら、優海を振り返る。

「うるっさいバカ! 近所迷惑でしょうが!!」