「……優海はいいお父さんになりそうだね」
ぽつりと言うと、彼は唇を左右にずらして目を見開いた変顔のまま私を見た。
思わず噴き出して、「その顔でこっち向くな、バカ」と小突いた。
「凪沙もいいお母さんになりそうだよ」
予想外の返しを受けて、思わず動きが止まる。
「……そんなことないと思うけど」
「そんなことあるよ。だめなことはちゃんと叱って、でも優しいお母さんになるよ」
ふうん、とだけ答えた。
沈黙が流れる。
がたんごとん、と響く電車の音が心地よかった。
鳥浦の駅が近づいてくる。
海は穏やかに波立ち、太陽の光を反射させていた。
見慣れた風景だけれど、いつもは優海と自転車を漕ぎながら見ていた景色を、優海と肩を寄せあって電車の中から見るだけで、ずいぶんいつもと違う感じがして新鮮だ。
もう少し乗っていたい気がしたけれど、到着を告げるアナウンスが流れてきたので、私はつないでいた手を離した。
「凪沙」
「着いたよ」
「……うん」
ふたりで立ち上がり、電車を降りて改札に向かう。
利用客のあまりいない鳥浦の駅はいつも閑散としていた。
電車の中は冷房がきいていて涼しかったけれど、一歩外に出ると強い陽射しと大音量の蝉の声が降ってきた。
ぽつりと言うと、彼は唇を左右にずらして目を見開いた変顔のまま私を見た。
思わず噴き出して、「その顔でこっち向くな、バカ」と小突いた。
「凪沙もいいお母さんになりそうだよ」
予想外の返しを受けて、思わず動きが止まる。
「……そんなことないと思うけど」
「そんなことあるよ。だめなことはちゃんと叱って、でも優しいお母さんになるよ」
ふうん、とだけ答えた。
沈黙が流れる。
がたんごとん、と響く電車の音が心地よかった。
鳥浦の駅が近づいてくる。
海は穏やかに波立ち、太陽の光を反射させていた。
見慣れた風景だけれど、いつもは優海と自転車を漕ぎながら見ていた景色を、優海と肩を寄せあって電車の中から見るだけで、ずいぶんいつもと違う感じがして新鮮だ。
もう少し乗っていたい気がしたけれど、到着を告げるアナウンスが流れてきたので、私はつないでいた手を離した。
「凪沙」
「着いたよ」
「……うん」
ふたりで立ち上がり、電車を降りて改札に向かう。
利用客のあまりいない鳥浦の駅はいつも閑散としていた。
電車の中は冷房がきいていて涼しかったけれど、一歩外に出ると強い陽射しと大音量の蝉の声が降ってきた。