優海は隣でお酒やお米をお供えする私をじっと見ていたけれど、私が拝みはじめると同じように両手を合わせた。

お願いすることなんてひとつもない私はいつもすぐに顔をあげるけれど、彼はまだしっかり目を閉じたまま神様の石を拝んでいる。とても真剣な顔で。


私が毎週神様の石にお参りしていることを知った人からは、若いのに偉いね、信心深いね、なんてよく言われるけれど、本当は、私は神様なんて全く信じていない。

だから、お参りのときも形だけ手を合わせているにすぎない。


でも、優海は本気で神様を信じているらしい。

だから、毎日ここを通るときは、私がお参りをしない日にも、こうやって律儀に手を合わせているのだ。

無邪気というか、能天気なやつ。

今までの自分の人生を振り返ってみれば、神様なんていないことは分かりきっているはずなのに。

いったい何をそんなに真剣にお願いしているんだか。

神様なんているはずないのに。


そう思いながら、私はいつも呆れ顔で優海の背中を見つめていた。――今までは。

私はもう一度手を合わせて、龍神様の石に向かって深く頭を下げた。


彼がまだ無言で手を合わせているので、その間に後片付けをすませ、荷物を鞄の中にしまう。

満足したらしい優海が手をほどいて瞼をあげると同時に私が「じゃ、お先に失礼」と自転車に飛び乗ると、彼は「ちょ、待って待って」と慌てて追いかけてきた。