再び歩き出すと、Tシャツを被っているせいで視界がずいぶん狭まっていることに気がついた。

前が見えないと障害物に気づくのが遅れるので心もとない。

それでもとりあえず足許だけを見て歩いていたら、数歩先を行っていた優海が振り向いた。

「あ、前見えないのか。歩きづらいよな」
「別に……下は見えてるから大丈夫」
「でも、電柱とかにぶつかったら危ないじゃん」

優海は私の隣まで戻ってきて、自然な仕草ですっと手をとった。

「やっぱ手つなごう。危ない」

何かを答える隙もなく、歩き出した優海に従うしかなくなる。

いや、違う。本当は振り払うことなど簡単だけれど、そうできない自分がいる。

優海の柔らかくて温かい掌の感触。

まるで自分の一部に触れているかのようにしっくりきて、これが他人の身体だなんて思えないほどだ。

手をつないでいるのがいちばん自然な気がして、もう離せなくなってしまう。

駅につくと、少し休憩したほうがいいと、改札の近くに置かれたベンチに座らされた。

優海がふたり分の切符を買って戻ってくる。

「行ける?」
「うん」

また手をつないで、改札を通り抜ける。

周りから見たら、学校を抜け出してきたカップルに見えるだろうか。

本当はついこの間別れてただの幼馴染の関係に戻っているなんて、誰も思わないだろう。