「真梨、おはよう」

教室に入って、席についていた真梨に声をかけると、彼女は挨拶もそこそこに言った。

「おはよ、ねえ、聞いた?」
「へ? なんの話?」
「三島くんと美紅ちゃんのこと」
「……」

私は一瞬言葉につまってしまってから、ぱっと笑みを浮かべた。

「あー、うん。お似合いだよね」

そう答えた瞬間、

「何言ってんの!」

がたんと真梨が立ち上がった。

その音に驚き、周囲の視線が集まる。

真梨は慌てた様子で腰をおろし、私の腕を引いて屈ませると、こそこそと耳打ちしてきた。

「だめだったって」
「……えっ?」

どくんどくんと動悸が激しくなってくる。

頭に血が昇ったような感覚で、ぼうっとして真梨の言葉がうまく耳に入ってこない。

「三島くん、断ったんだって」
「………」
「美紅ちゃんと仲良い子から聞いたの。他に好きな子がいるからごめんって」
「……へえ」

すぐにはそれしか言えなかった。

でも、頭をフル回転させて必死に言葉を捻り出す。

「バカだねえ、あいつも。あんな可愛くて良い子に告られるなんてめったにないよね。人生に一回の奇跡かもしれないのに、断っちゃうとかほんとバカだわー」

私の必死の言葉を、真梨は静かな瞳で受け流した。