「あ」
「あっ、……凪沙」

トイレから戻って教室へ入ろうとしたとき、ちょうど中から優海が出てきた。

真正面に向かい合って、一瞬二人とも動きを止める。

でも、次の瞬間には優海も私もにこりと笑みを浮かべていた。

「ごめん、どうぞ」
「いえいえ、こちらこそ。ありがと」

優海が横にずれて道を空けてくれたので、軽く頭をさげて隣をすり抜けた。

周りから無言の視線を感じるのは、ここ最近はいつものこと。もう慣れた。

期末テストのあとに別れてから約十日、優海とはずっとこんな感じだ。

三日後には終業式があり、夏休みがはじまる。

時の流れは本当に早い。

あの雨の中、優海と別れ話をしたときには、夏休みなんて永遠に来ないような気がしたのに。

席に戻り、椅子に腰を落とす。

テストのあとに席替えがあって、窓際のいちばん後ろの席になった。

この席になってよかった、と座るたびに思う。

ここなら、授業中にはほとんど誰にも顔を見られなくてすむ。

もしも込みあげるものが堪えきれなくなったら、顔を背けて窓の外を見ているふりをすればいい。