足を止めて見ると、真梨は眉根を寄せて唇を噛みしめている。

「……なに? どうしたの?」
「今の……どういうこと?」
「え?」

真梨は後ろを振り向いてちらりと美紅ちゃんを見てから、ぱっと私に向き直った。

「なんで美紅ちゃんにあんなこと言ったの?」

唐突な問いに、私は答えにつまってしまい、ただじっと見つめ返す。

「……ごめん。こういうこと言うの余計なお世話だって分かってるから言いたくないんだけど、我慢できなくて訊いちゃった……」
「いや……それは謝らなくていいんだけど」

むしろ私が真梨の立場だったら、もっと色々言ったり訊ねたりしただろうと思う。

「なんかおかしいよ……凪沙。あんなに仲良しだったのに急に三島くんと別れるなんて。それに美紅ちゃんにあんなこと言って……」

何も言えなくて、ただ右手のリコーダーを握りしめる。

「……本心じゃないんでしょ? さっきの」

真梨が静かな瞳でまっすぐに私を見た。

いつもほんわかしている彼女の、こんな表情は初めてで、この瞳にはうそなんかつけない気がして、私はさらに返答に困った。

「いや……なんて言うか……」

考えた末に、いちばん正解に近そうな言い回しを見つけて、ささやくように口にする。

「本心ではないかもしれないけど、本気だよ」

そう答えると、真梨は脱力したように肩を落とした。