私たちが住んでいる鳥浦町は、小さな港町だ。

港町というより漁村というほうが、この独特の寂れた雰囲気にはしっくりくるかもしれない。

いちおう『漁港』という名前のついている場所はあるけれど、小さな漁船が十数台係留してあるだけのそこは、港というよりは船着き場という雰囲気だ。

二十年ほど前の市町村統合で、付近の漁村がいつくかまとめられて『鳥浦町』という名前になったらしいけれど、大人たちは未だに自分たちの集落を『村』と呼んでいる。

「ふー、やっと追いついたー」

優海が嬉しそうに横に並ぶ。私は少しスピードを落とした。このまま走り続けたら目的地に着くまでにばててしまう。

「凪沙、今日、お参りの日?」

訊ねられて、私は前を向いたまま頷く。

「うん、そうだよ」
「そっか。じゃ、俺も付き合うー」
「ありがと」

今度は少し横を見て頷いた。優海があからさまに嬉しそうに笑う。

「にしても、凪沙は偉いなー。ちゃんと毎週お参りして」

そう言っている彼が、実は毎日ちゃんと手を合わせているのを私は知っている。

でも、あえてそれには触れず、

「まあ、おばあちゃんの代わりだしね」

路肩に二人並んで自転車をこぎながら、国道を南へと下っていく。