そう思ったら、身体が勝手に動いて、彼に傘を差しかけそうになってしまった。

途中で気がついて、慌てて手を止める。

ここでそんな中途半端なことをしてしまったら、それこそ意味がない。

だから、早く話を終わらせて、早く家へ入らせるのがいちばんだ。

「……もうあんたに言うことはないから」

低く、極力なんの感情もともなわない声で、淡々と言い放つ。

優海は顔を歪めて唇を噛み、それから呻くように言った。

「わけ分かんねえよ……なんでこんな急にそんなこと……。理由言ってくんなきゃ納得できない……」

それもそうか、と思う。

これまで表面上はなんの問題もなく仲良くやってきておいて、いきなり別れたいなんて言っても納得してもらえないのは当然かもしれない。

私は優海に気づかれないようにひとつ深呼吸してから、まっすぐに彼の目を見て、聞き逃されたりしないように声を張ってはっきりと言った。

「――嫌いになったの」

私の言葉は、しっかりと形になってまっすぐ彼に向かって飛んでいったような気がした。

そしてそれを証明するように、彼はまるで鋭い矢に射抜かれたようにぴたりと動きを止めた。

「優海のことが嫌いになったの。もう全然好きじゃないの。だから、別れたい。それだけ」