「え、話?」

何も知らない優海は、いつものあっけらかんとした笑顔で訊ね返してくる。

ずきりと胸が痛んだけれど――こうまでしたんだから、今さらやめるわけにはいかない。

「あのね……」

自分ののどから、ごくりと唾を飲み込む音がした。

どうしても彼の顔を直視できなくて、うつむいてしまう。

でも、そんな言い方ではきっと優海は信じてくれない。

だから、ぐっと唇を噛んで顔をあげた。

優海の瞳を真正面から見つめる。

細く深呼吸をして、口を開いた。


「……優海。別れよう」

にこにこ笑っていた優海の顔から、じわじわと表情が失われていく。

十年以上の付き合いだけれど、こんな顔の彼は初めて見た。

「………は?」

真顔でたっぷり十秒以上は硬直してから、優海がかすれた声で小さく言った。

「今、なんて……もう一回……」
「別れて」
「………」
「私たち、別れよう。もう終わりにしよう」