「どこ行くんですか? 屋上は雨ですよ?」
「階段上りきったところの踊り場」
「部屋にタオル取りにいかないんですか?」
「中に入れるわけにはいかないでしょ。外で待っててって言っても逃げるだろうし、ネコ」
「なんでですか? やっぱり彼女がいるから?」
 
階段を上りながら、ムキになって嫌味っぽく尋問する。

「しつこいね。彼女なんていません。イトちゃんっていう、かわいいニャンコが一匹いるだけで」
 
ウソだ。
以前玄関まで入った時、猫なんていなかった。

「イトさんって言うんですね、彼女。ウソツキさんて、女の人はみんな猫にたとえるんだ」
「怒るよ?」
「もう怒ってるじゃないですか」
 
踊り場まで来ると、壁に詰めよられた。
背中が壁の面に当たり、逃げ場を失う。