優衣は私の非社交的なところをひどく心配していて、ことあるごとに隣の一組から様子を見にくる。クラス替えが終わって半月、ほぼ毎日だ。

「別に友達を作る必要ないもの。優衣がいるし」
「だから~、私だけじゃクラスでなにかあったとき困るでしょ?」
「平気よ」

そこそこの進学校だ。高三ともなれば、みんな友情を育むより勉強に打ち込むことを優先する。友人がいなくて不便することは少ないし、班や当番などの活動はそれこそ優衣の部活仲間の斉木さんと新藤さんが気を遣ってくれる。優衣が頼んでくれたみたい。

「真香が個人主義なのは知ってるし、それで充分やってけるのは知ってるよ。学年一位の秀才は勉強が一番大事なのも知ってる。でも、周りと強調するのって大人になるのに必要科目だと思うんだけどな~」
「優衣、お説教。オバサンくさい」
「真香、むかつく~。ま、いいや。お昼にまた来るね」

私がたたいた憎まれ口に笑顔を返し、優衣は去っていった。時刻は間もなく朝のホームルームだ。

個人主義。
その通りだから言い訳のしようもない。友達は積極的には作らないし、学業優先で三年間過ごしてきた。
それでいいと思っているし、この先もそうするつもりだ。優衣という友人ができただけで私の高校生活は恵まれていると思う。

学校は勉強をしにくるもの。それは小学生から言われてきた。私が小さいときに両親は離婚。お母さんは働きながらひとりで私を育ててくれている。苦しいだろうに私立の有名小学校に入れてくれた。すべては私が将来苦労しないためだとお母さんは言う。勉強していい大学に入って、いい職につきなさい。
いい職とはなんだろうと思いながら、私は幼い頃からそれに従ってきた。お母さんは私の唯一の保護者であり、お母さんに見捨てられたら生きてはいけない。それなら期待に応えるしかないのだ。

優先はいい点をとること。このどこにでもある進学校で一番を取り続け、お母さんがいうところのいい大学に行き、お金に不自由しない職種に就く。
それが私の展望というでもない決定事項。