「トシさんもそうでしたか?……ご主人を亡くされたあと」
「親も義両親も見送ったからね。旦那も私が見送ってやれてよかった。あのじいさんをひとり残す方が心配でおちおち死ねなかったからね。清々しいもんさ、あとは自分が死ぬまで、平穏無事に生きるだけ」
少し笑って、思い出したようにトシさんは付け加える。
「そうそう勘太郎もこれから見送ってやらなきゃねぇ。一週間後かひと月後か。まあ、心づもりはできてるよ」
トシさんは私の何倍も生きている。その分たくさんの出会いと別れを繰り返してきた。
大切な家族との別れにけして鈍感になっているわけじゃない。
ただ、静かに覚悟を決めているのだ。それが、トシさんの向き合い方なのだ。
「私、トシさんみたいに見送れるか本当はわからないんです。大泣きしてすがってしまいそう。いつ来るかわからない別れが怖くて仕方ないんです」
誰にも言えなかった苦悩を言葉にして発すると、自然と涙がこぼれた。
私はもうじき迅とさよならする。今度こそ完全にお別れする。
「覚悟したはずなのに。もう一度会えたことが奇跡だって、自分でわかっているのに。着実に近づいてくるおしまいが……苦しい」
ぽろぽろと泣きながら、泥だらけの軍手で顔を擦る私を見かねたらしい。トシさんが綺麗な手拭いでごしごしと私の顔を拭いてくれる。みっともないねぇ、なんて口では言いながら、涙を拭いてくれる手は優しい。
「死の悼み方には泣くって方法もある。たくさん泣いておやりよ」
「でも、迅を苦しめたくないんです。罪悪感を覚えさせたくない。安心して逝けるように静かに見送りたいのに」
しゃくりあげ言う私に、トシさんが呆れた口調で怒鳴った。
「馬鹿だね、苦しめてやるんだよ!可愛い妹分を残して死ぬあいつをたっぷり後悔させてやんな!」
後悔させてやるだなんて。トシさんの口ぶりに、泣きながら笑ってしまった。
「ふふ、そっか。それでいいんですね」
「そうだよ。我慢する必要なんかないのさ」
トシさんは小柄な背をしゃんと伸ばして威張っている。
私はトシさんのそういうところが好きだなと思った。
「親も義両親も見送ったからね。旦那も私が見送ってやれてよかった。あのじいさんをひとり残す方が心配でおちおち死ねなかったからね。清々しいもんさ、あとは自分が死ぬまで、平穏無事に生きるだけ」
少し笑って、思い出したようにトシさんは付け加える。
「そうそう勘太郎もこれから見送ってやらなきゃねぇ。一週間後かひと月後か。まあ、心づもりはできてるよ」
トシさんは私の何倍も生きている。その分たくさんの出会いと別れを繰り返してきた。
大切な家族との別れにけして鈍感になっているわけじゃない。
ただ、静かに覚悟を決めているのだ。それが、トシさんの向き合い方なのだ。
「私、トシさんみたいに見送れるか本当はわからないんです。大泣きしてすがってしまいそう。いつ来るかわからない別れが怖くて仕方ないんです」
誰にも言えなかった苦悩を言葉にして発すると、自然と涙がこぼれた。
私はもうじき迅とさよならする。今度こそ完全にお別れする。
「覚悟したはずなのに。もう一度会えたことが奇跡だって、自分でわかっているのに。着実に近づいてくるおしまいが……苦しい」
ぽろぽろと泣きながら、泥だらけの軍手で顔を擦る私を見かねたらしい。トシさんが綺麗な手拭いでごしごしと私の顔を拭いてくれる。みっともないねぇ、なんて口では言いながら、涙を拭いてくれる手は優しい。
「死の悼み方には泣くって方法もある。たくさん泣いておやりよ」
「でも、迅を苦しめたくないんです。罪悪感を覚えさせたくない。安心して逝けるように静かに見送りたいのに」
しゃくりあげ言う私に、トシさんが呆れた口調で怒鳴った。
「馬鹿だね、苦しめてやるんだよ!可愛い妹分を残して死ぬあいつをたっぷり後悔させてやんな!」
後悔させてやるだなんて。トシさんの口ぶりに、泣きながら笑ってしまった。
「ふふ、そっか。それでいいんですね」
「そうだよ。我慢する必要なんかないのさ」
トシさんは小柄な背をしゃんと伸ばして威張っている。
私はトシさんのそういうところが好きだなと思った。