「そんな半端な自分が嫌で、お前を許してしまう自分を許せなくて、山の中で意識が遠のいていく時、このまま消えてなくなってもいいかもしれないって思った」
 吉木がこんなにも苦しんでいたなんて、知らなかった。彼に近づかなければ知れなかった。告別式で泣き叫んでいた彼の顔が今、鮮明に蘇ってくる。

 ああ、君も、まだそこにいたのか。

「なのになんでだよ、なんでお前が、俺なんかに生きてほしいって泣くんだよ……。俺が死ぬかもしれないことで、なんでそんなに悲しがるんだよ」
 彼の心臓の音が、どんどん速まっていく。私の頭を押さえつける力が強まっていく。私は次の言葉で彼が壊れないように、ぎゅっと強く抱きしめ返した。

「なんで、そんな単純なことで、涙が出てくるんだよ……」

 どうして、大切な人の弱さを知った時、どうしようもないほど愛しい気持ちで溢れてしまうんだろう。切なくて苦しくて愛おしい。
 君のことを守ってあげたい。今、強く強く、そう思ってしまった。どうしようもないほど、君のことを愛おしく思ってしまった。

 君が好きだ。泣きたくなるほど。

「吉木が生きててよかった……。出会ってくれて、ありがとう……っ」

 どうか、弱さを見せてください。痛みを分けてください。笑ってください。幸せでいてください。抱きしめさせてください。
 君は、私にとって、そんな思いにさせる人だ。きっともう、一生こんな人には出会えない。もし生まれ変わって、また君に会えたら、この気持ちを伝えてもいいだろうか。

「……そんなに、泣くなよ。俺、ここにいるから」
 そう言って君は、私の涙を指の腹で拭った。私も、同じように彼の涙に触れた。温かい。忘れていた。涙はこんなにも温かいものだったんだ。

 幸せになってほしい。心からそう思う。でもそんなことを、本来恨まれるべき私が口にするのはおかしいから、心の中で強く願ったんだ。

…… 雨と涙が混じっていく。冷たい体を少しでも温めるように彼の背中を優しくさする。君が初めて私の名前を呼んだ。震えた声で何度も呼んだ。

 私たちは、お互いの涙が枯れるまで、強く強く抱きしめあった。