「吉木が……言ったんだよ……、人の気持ちは全部は分からないから、だから、人は誰かと一緒にいようと思うんだってっ……」

 その〝一緒にいたい人〟が君だよ。
  私バカだから、今ようやく分かったんだよ。謝るからお願い、目を覚ましてよ。

例えどんなに恨まれていようと、二度と会いたくないと思われていようと、構わない。
神様、これ以上の願いはないです。本当に一生に一度の願いです。

吉木を、私の大切な人を、助けてください。

「お前、泣いてんの……?」
 目を瞑って祈っていたら、ふと低い声が鼓膜を震えさせた。ゆっくり瞼を開けると、そこにはぼうっとした瞳で私を見つめている吉木がいた。
 さっきまであんなに叫んでいたのに、声が喉に詰まって上手く出てこない。
「あ……、よし、き……起きたの……」
「なんでここにいんの、訳分かんね……」
 本物なのかと呟いて、吉木が寝そべったまま私の濡れた頬に触れてくる。まだ意識がぼんやりしたままなのか、吉木は私の頬を撫でたまま口を開く。
「俺、意識失ってたんだ……?」
「うん、私のスマホに留守電入ってて、それでここまで来たの……。宗方君が教えたのは実は私の番号で……」
「うん、分かる。流れてきてるから、大丈夫」
「え……? どういうこと」
 そう問いかけると、吉木は私の手を握りしめて、今まで彼の背中に重くのしかかっていたものをそっと降ろすように、話し始めた。

「俺もお前と同じ、人に触れるとその人が泣いた映像が流れてくるよ。母親の告別式のあの日から」
「え……、吉木も同じ能力を持ってたの……?」
「うん。だから見える。お前が山登ってたところから、さっきまで必死に俺の名前呼んでた映像まで」
 ……世界に、こんな能力を持っているのは、私だけだと思っていた。永遠にこの能力に振り回されて生きていくのだと思っていた。でも一人じゃなかった。それが分かっただけで、信じられないほど安堵感が広がっていった。

「お前を追いかけてあの高校に行った理由は、それだよ。本当は、もしかしたらお前も同じ力を持ってるんじゃないかって、それを確かめたくて、会いに行ったんだ……」
 吉木は私の目を見つめながら、ハッキリとそう答えた。もしかして、あの日プールサイドで言いかけたことは、このことだったんだろうか。それを聞かずに私は、彼のことを恐れて突き放した。
 後悔の涙が溢れ出てきて、私はまた吉木の頰に涙を落としてしまった。
「ごめん、ごめんなさい……、あの日最後まで聞かずに、吉木を恐れて……」
 彼は何も言わずに、私のことをじっと見つめている。
「私の過去は変えられないけど、もう一度吉木に会いたいと思って、ここまで来てごめん……」
 ぼろぼろと、心の壁が剥がれ落ちていくかのように、涙が溢れていく。言いたいことはたくさんあったはずなのに、拙い言葉しか出てこないよ。