「吉木ー! いるの!?」
反応はない。動かない。私は慎重に足を踏み出して、一歩ずつ彼に近づいた。間違いない、写真展で見た時と同じウェアを着ている。あれは吉木だ。
そこから先は、不思議と足の痛みが消えていた。全神経が、吉木を助けることに向いているせいだろうか。そしてついに、倒れた吉木の元まで辿り着いた。四年ぶりに見る彼は、瞼を閉じたまま動かない。私は彼を担いで、少しでも平らで崩落の危険がない場所へ引きずった。
「大丈夫、絶対、助けるから……っ」
吉木に触れた瞬間、彼が泣いた時の映像が全身に流れ込んできた。あの日プールサイドで見た時と同じ映像だ。告別式で、まだ幼い彼が私のことを罵倒している。恨みを全身でぶつけてきている。
心が、折れそう。胸が、千切れそう。痛くてたまらない。
それでも君に近づきたい理由はなんだ。君に生きて欲しいと願う理由はなんだ。言葉にできないけれど、ひとつだけ確かなことがある。
君は私の、心の一部だ。
「吉木、起きてよぉ……っ」
言葉に押し出されるように、はらはらと涙が溢れ出てきた。十年分の涙が、今日のためにとってあったかのように、大粒の涙が彼の頬へと落ちていく。彼の頬についた泥を溶かして流れていく。
涙で景色が歪んで、吉木の顔が見えなくなっていく。久々に泣いたせいで、涙を拭う動作も忘れた。酸素もどんどん薄くなっていく。それでも私は呼び続けた。
「起きてよ、嫌だよ、吉木、吉木、吉木……!」
冷え切った頬に手を添えて、名前を呼び続けても目を覚まさない。体の水分がなくなってしまうんじゃないかと思うほどの涙が溢れ出ている。
走馬灯のように頭の中を駆け巡るのは、君との高校時代の思い出ばかりだ。
いじめられた時に助けてくれたこと、キャンプの時に追って来てくれたこと、深夜のプールで私を見つけてくれたこと。
全部覚えている。絶対に忘れない。忘れるはずがない。