とっくに分かっていたじゃないか、彼の恨みを買っていたことなんて。だけど私は、何故こんなにもダメージを受けているんだ。彼は私のことをずっと恨んで、あの高校に入学してきたんだという事実が改めて体にのしかかる。
 どこかで私は、許されると思っていたんだろうか。もう一度会ってあの時のことを謝れば、友達になれるかもしれないと、自惚れていたんだろうか。
 あの時、プールサイドで確かに彼は言っていた。
 俺とお前は、〝そう〟あるべきだって。
 そうあるべきとは、二度と会わないべきだということだったんだろう。そもそも私達は、お互いを傷つけ合う過去を持ちすぎている。

「詩春、なんか顔色悪い? 大丈夫か」
「あ、うん、ごめん大丈夫」
 私は笑顔を取り繕って、はやくカフェに行こうと彼を急かした。笑顔を貼り付けないと、自分を保っていられないと思った。
 
 日常を奪うって、幸せを奪うよりきっと残酷だ。私の父は、そんな大罪を犯したんだ。
 吉木の人生にこれ以上立ち入らないことが、せめてもの罪滅ぼしなんだと、私は胸の中に刻みつけた。