「俺は、お前にお礼を言われるような、人間じゃない」
いつもより低い声に、ゆっくりと顔を上げると、吉木は額に拳を当てて、唇を噛み締めていた。
「今、お前にそんな風に言われて、死にたい思いになってる……」
「吉木……」
「お前が嫌いなんじゃない、お前を嫌いでいなきゃいけないんだ、俺はっ」
そう言った瞬間、吉木は私の腕を引っ張り、乱暴に私の頭を抱え込んで、自分の胸に押し当てた。吉木の心臓の真上に耳を押し当てさせられた瞬間、同じように私の心臓もドクン、と脈打った。
ドクン、ドクン、ドクン、という振動と共に、知りたくなかった過去が流れてきた。
それは、吉木の、唯一泣いた〝あの日〟の出来事だった。彼が、絶対に触れるなと言った理由が分かった。
『同じ罪を背負って、これから先、泣きも笑いもせずに生きていけよ、一生忘れんな!』
記憶の渦の中で、私の過去と彼の過去が重なっていた。忘れていた、あの日の少年の顔が徐々にクリアになって、吉木の顔と重なっていく。
そうか、君は、私の父が幸せを奪ってしまった、あの日の少年だったのか。
目眩のするようなショッキングな映像を見終えた私は、ゆっくりと彼から離れる。きっと私は今、すぐにでも壊れだしそうな表情をしているだろう。