「……お前のこと、全然知らないけど、ひとつだけ知ってることがある」
いいのだろうか、私は、こんな簡単に救われてしまって。
「お前は、大切な誰かを傷つけたりはしない。全然、大丈夫だよ」
淡々とした語り口なのに、どうしてこんなに胸が痛い。
私は、ずっと誰かに、そんな風に言って欲しかったのかもしれない。大丈夫だよって、なんの根拠もなしに言って欲しかったのかもしれない。父の陰に一番怯えていたのは、きっと私だ。父の冷たい血が流れているような気がして、いつか誰かを傷つけてしまいそうな恐怖に怯えていたんだ。
万里も、砂子も、今の家族のことも、いつかこの〝血〟のせいで、傷つけてしまうんじゃないかって。長く一緒にいるほど、その不安は募っていった。
どうして君は、そんなことが分かるの。
「それでも吉木は、私のことが、嫌いなんだよね……」
確かめるように問いかける。吉木の顔は、怖くて見られない。きっと彼は困っている。
「それでもいい、ありがとう……」
想像よりずっと声が震えてしまった。恥ずかしい。でも、どうしても伝えたかった。この言葉以外になかった。
ようやく、吉木への気持ちに決着がついたような気がした。私はきっと、君に近づきたいと思ってしまっている。たとえ、その気持ちを君に否定されたとしても。