どれくらい経っただろう。気づくと、プールは暗闇に包まれていて、窓から漏れる街灯だけが頼りだった。がむしゃらに泳いだせいで、急激な疲労感に襲われ、私は気づくとプールサイドで寝てしまっていた。
 布団代わりにしていたビート板から起き上がり、私は窓の外を見上げる。冷たく固くなった体をさすりながら、今、一体何時だろうと、ぼんやりとそんなことを考える。
「何時でもいいや、もう……」
 あの日の少年の、一生忘れんな、という言葉が、じーんと頭の芯に響いて鈍痛が走った。分かっている。私はきっともうこの先、何にも泣けずに生きていく。この、得体の知れない不安を背負っていく。
「お母さん、心配してるかな……」
 帰らなきゃ。そう思うけれど、体が動かない。脳から指令を出しているはずなのに、どうして。青白くなった肌を、窓から漏れた蛍光灯の白い光が照らしている。寒い。このまま、ここで化石みたいに固まってしまうんじゃないだろうか。
 そんな風に思ったその時、受付側にある奥のドアが突然開いた。その音で、弾かれたように強張った体が反応し、私はドアを見つめた。
 そこには、プールにはそぐわない格好をした人が立っていた。紺色のダッフルコートに身を包んだその人は、靴のまま私の元まで近づいてくる。

 なんでだ。どうして君が、ここにいるんだ。
 どうして君が、私を探してくれるんだ。