「お父さんと、もう暮らせないの?」
 それは、今の母にとって一番されたくない質問だったのかもしれない。乾いた紫色の唇から、そうよ、とだけ返ってきた。
「どうして……? 本当にお父さんが、殺したの?」
「そうよ」
「どうやって、殺したの」
「言葉で追い詰めて殺したの」
「言葉でって……、でもお父さんは」
「詩春の知ってるあいつは、本当のあいつじゃないわ」
 母は、父のことなんか、もう微塵も信じてなんかいなかった。憎しみに満ちた瞳を見て悟った。私はもう二度と父には会えないと。そう思うと、急に家族崩壊が現実味を帯びてきて、不安とパニックで涙がじわりと溢れ出てきた。

 これから、どうなっちゃうの、私。もう、父には会えないの。

「やだ、私、まだお父さんに会いたいっ……」
「何でお前が泣いてんだよ」
 突然、呻き声に高い怒りに満ちた声が、私の体を貫いた。顔を上げた瞬間、制服の襟足を掴まれ、私の体は突き飛ばされた。
 同い年くらいの少年が、鬼のような形相で私のことを睨みつけている。鬼のような、というより、本当に鬼、だった。怒りと悲しみに狂った彼は、突き飛ばされ尻餅をついた私と、そんな私にすぐさま駆け寄った母に向かって同じ言葉で怒声を浴びせた。
「何でお前が、泣いてんだよ!」