「お前は、そうやって言葉にできる人間なんだな」
「え……」
「傷ついてるって、傷つけた人に言える人間は、強ぇよ。どこでも生きていける」
吉木は、自分に言い聞かせるように呟いてから、短く鼻で笑った。傷ついてるって、面と向かって言えたのは、それは相手が吉木だからだよ。そうやって達観して、すぐ俯瞰で私を見ることをやめてよ。ねぇ、一体どこを見てるの、吉木。

「吉木は、何を言っても叫んでも、すぐにそうやって私に何かを重ねて、私を見ないんだ……」
その言葉に、今まで無表情だった吉木の目が一瞬開いた。
そうだ、私は、彼にちゃんと私を見てもらっていないことが、嫌だったんだ。私の後ろにある影を見て話しているようで、嫌だったんだ。
「部屋、戻る」
自分の心に自分で触れた時、私はどうしたらいいのかますます整理がつかなくなってしまった。ただ、動揺した彼の顔が頭から離れずに、変に心臓がばくばくと動いている理由も分からずに、ひたすらに坂を登った。

私を見て、と懇願してしまったようなものだ。おかしな話だ。私はもうすでに、彼に嫌われているというのに。