「どうして助けてくれたの? って顔してる」
吉木の端正なつくりの顔が、目の前にある。その目はいつも通り暗く沈んでいて、感情がまったく読み取れない。
「意外と単純なんだな。こんなことくらいで俺に対してのガード緩めて」
「単純って……。助けてもらったのは事実だから」
「言っとくけどお前じゃなくても助けたし、迷惑だからそういう感情を俺に向けるな」
そう言って、吉木は私の瞳を射抜くように睨みつけてきた。どうしてこの人は、私との距離を一ミリも縮めないように、言葉で突き放してくるんだろう。行動と言葉が伴っていない。この人に助けられたのは、もう二回目だ。その度に、なぜ私はこんなに傷つかなければならないのだろう。嫌いなら放っとけばいいし、勘違いされたくないのなら無視をすればいいのに。考えれば考えるほど彼が分からなくて、表しようのない怒りがふつふつと湧いてくる。

「なんでそんな、強い言葉ばっかり使うの」
少し低い声で話し出した私に、吉木は一瞬眉をピクッと動かす。白い息が頬の横を通り過ぎて、山の冷えた空気が私の手を震わせる。
「私はいつも、傷ついてるよ。吉木の言葉全部に」
どうでもいい人間になら、何を言われたって構わない。でももう、秘密を知られたあの日から、吉木はそんなカテゴリにおける人じゃなくなってしまった。

「吉木が思う以上に、私は吉木の言葉を真に受けてるよ。真に受けて真に受けて、その一言に、こっちがどれだけ振り回されてるか分かってんの」
積もり積もった苛立ちが、自分の口から想像以上に大きい声で溢れてしまった。こっちはこんなに掻き乱されているんだから、同じように乱してやりたいという気持ちが先行して、言うつもりもなかった言葉が出てきてしまった。
恐る恐る顔を上げると、彼は変わらぬ表情で私を見つめていた。