「俺の頭の上には、何が見える」
ゆっくりとした声に顔を上げて彼の頭上を見つめる。変わらぬ数字が、そこに浮かんでいる。
「いち」
そう言うと、彼は一瞬何か納得したような顔を見せて、深く息を吐いた。
「だからあんなに、バカみたいに人のこと心配してたのか」
「え、信じてくれるの……」
思わず驚き声を上げると、「なんて顔してんだよ」と言って、吉木はぱしゃっと私の顔に水をかけてきた。私今一体、どんな顔をしていたんだろう。
「信じるしかねえだろ、当たってるんだから」
ぶっきらぼうにそう言って彼は立ち上がると、近くにあったベンチに座った。私も水から這い上がり、プールサイドに座る。体をひねって吉木の方を見ると、彼は顔を手で覆って俯いていた。
「……で、お前は、人の涙の回数が増えるたびに心配して声かけてんのか」
「仲の良い友達だけだよ」
「へぇ、優しいんだ」
思い切り棒読みで、ヤサシインダ、と言われたことがなんだか無性に腹が立って、私は吉木に向かって水をかけた。ベンチまでは少し距離があったのでダイレクトにはかからなかったが、吉木の白シャツは水飛沫で濡れ、水玉模様ができていた。
まずい。怒られる。思わず衝動的にやってしまった行為を私はすぐに反省したが、謝罪以外の言葉が口をついて出てしまった。
「……思ってもないこと、言わないで」
優しいなんて思ってないくせに。現に私は優しくなんかない。同情するふりして、実はミーハー心で聞き出しているときもあったかもしれない。そんな自分が、私だって大嫌いだよ。
「じゃあ、思ってること言ってやるよ」
水に濡れた吉木は、一瞬ゾクッとするほど色気がある。ベンチから離れ近づいてくる彼に、私は思わず息を呑んだ。一体何を言われるのか、想像がつかないから、彼は怖い。