思わず声を上げる私に、吉木はゆっくり視線を合わせてきた。
 吉木が止めに入らなかったら、私はあの時、彼女たちの辛い過去をのぞき見して、心の傷を抉っていた。この力を悪用してしまうところだった。

 私は、沙子を傷つけてしまったとき、学んだはずじゃなかったの。この能力は、決して人のためにはならないのだと。
 私がしようとしたことは、吉木がしたことより最低だ。だけど、私、どうしてもばれたくない。

「沙子に、私がいじめられてるってばれたら、罪悪感抱くだろうから、やめて……」
 もうこれ以上自分の大切な人を傷つけたくない。この能力が覚醒してから、ようやくちゃんと親友と言える人ができた。それが沙子と万里だった。こんなしょうもないことで、気まずい思いをさせたくない。こんな、私が我慢すればどうにかなることで、失いたくない。
 スマホをもって震えている私と、冷ややかな目でスマホを見下ろしている吉木との間に、冷たい空気が流れた。しばし沈黙が続いて、彼が自分のスマホを私から取り上げ、サクサクと操作してから画面を私に見せた。

 “投稿を削除しました”。
 表示を見て、私は思わず彼を泣きそうな顔で見上げてしまった。

「お前よく分かんねぇよ」
 初めて、彼の表情が崩れた瞬間を見た。
 なんだよ、それ、そんなのこっちの台詞だよ。吉木のことなんか、ちっとも分からない。何一つ掴めないよ。