「お前らグルかよ、気持ち悪ぃ」
 先輩たちは、いつもより少し弱弱しい声でそう吐き捨てて、私たちから去っていった。私は、吉木の青いジャージを見つめながら、なんて声をかけたいいのか考えあぐねていた。
 ありがとう、助かった、かばってくれたの? どれも違う。うぬぼれたくない。吉木に話しかけることは、返ってくる言葉が想像つかなくて、怖い。
「ああいう奴ら見てると……殺したくなる」
 ぽつりと彼が呟いた瞬間、ジャージに入れていたスマホが激しく震えた。驚き思わず画面を見ると、帰宅部の万里からメッセージが滞りなく届いていた。『SNS見たけど、大丈夫⁉』との内容の嵐に、私は頭の上にはてなマークを浮かべる。
 万里から届いていたURLにアクセスすると、昨日の倉庫での会話が再生された。新見高校水泳部とだけ補足されたその動画は、生徒に拡散されまくっていた。
 私は、この動画をUPした犯人が誰なのかもう分かっていた。今目の前にいる、この冷血人間だ。
 ねぇ、これ、と話しかける前に、吉木がこちらを振り向く。まるでスローモーションのように、吉木の髪がふわっと風で舞い上がった。音声が再生されているスマホを私から取り上げて、吉木は呟く。
「こんな奴ら、消えればいい」
 その言葉を聞いた瞬間、吉木は私を守るためなんかじゃなく、ただの『制裁』のためにここにやってきたのだと理解した。その瞬間、少し背筋がぞっとした。でも、私はすぐに頭をふるって、吉木のスマホを彼のジャージから取り出し食い掛った。
「消してよ、これ、お願い」
「善人ぶってんじゃねぇよ。これであいつらの大学推薦は無くなったし、お前もいじられたりしない」
「そんなのはどうでもいいんだって!」