「私さ、転校すんだ。もっと水泳が強いところに」
「え……、転校」
「本当はさ、水泳の強豪校受けようとしてたんだ。でも両親に反対されて、今の進学校に渋々きた。それでも訴え続けて、ようやく許してもらえたんだ。編入試験の結果も昨日届いて、それで転校がちゃんと決まって……」
「沙子と会えなくなるの?」
 思わず口から出てしまった私の言葉に、沙子は一瞬だけ瞳を揺らした。
「沙子が望んだ転校なら仕方ないけど、どうしてそんな悲しい顔してるの?」
 責めるような 私の質問に、沙子は静かに口を閉じ、俯く。沙子が急にいなくなってしまうかもしれないショックに動揺した私は、自分勝手に問い詰めてしまった。沙子の本当の涙の理由なんか、考えもせずに。
「水泳なんて、ここでもできるじゃん! なんか他に理由があるんじゃないの? ほ、本当は私たちのことが嫌いとか」
「……逆だよ、詩春」
「私、沙子がいなくなったら、水泳部どうやって楽しめばいいのか分かんないよ」
 私は、沙子みたいに大人になれない。沙子がいなくなったら自分が困るという理由でしか今話せていない。
 ……なんて、なんて身勝手なんだろう。彼女の泣いている姿を見ているのに、どうして私はここまで自己中なことが言えるんだ。それなのに、言葉は止まらない。