「万里は今日予定あったの?」
私の問いかけに、沙子は少しだけ目を泳がせる。
「ああ、なんかうん、彼氏とデートだって」
「へえ、なんだかんだ仲直りしたんだ。良かったじゃん」
そういえは、沙子とこんな風に二人だけで遊ぶのは初めてかもしれない。少し沈黙が続いて、改めて私達の会話は万里のハイテンションさでもっていたのだと実感した。
……彼女の頭の上にある数字が増えた理由が気になる。もしかして、万里と喧嘩でもしたのだろうか。手にさえ触れればどんな場所で泣いていたのかが分かる。私は、さりげなく彼女の手に触れようとした。
すると、沙子は目を見開きバッと手を引いた。
「え、なに……?」
「いや、ネイル綺麗だなと、思って……」
もしかして、能力を勘ぐられている? そう思ってドギマギしたけれど、沙子は「ああ、そんなことか」と言って私に爪を見せてくれた。やっぱり今日の沙子の様子はおかしい。
「お待たせしました、トマトのクリームパスタと、ジェノベーゼパスタでございます」
目の前に置かれたパスタから、美味しそうな匂いが鼻に立ち込める。
私の手に触れることなく、沙子はフォークを手にとって、緑色の麺をくるくると上手に巻きつけた。それをひとくち、ふたくち運んだところで私は言いにくかったことを切り出した。