「美味いな、ビール」
同じビールを口に運ぶ。疲れていたからだろうか。あまりに美味しくて、びっくりした。
幸せを言語化するのは難しいけれど、例えばきっと、こういう瞬間なんだろう。
窓から吹いてくる風が心地よい。
何度考えても不思議だ。
今君と、こんな風に過ごしているなんて。

「……なんか、ようやくって感じだな」
片手でビールを持ちながら、君があまりにも優しい声でそう呟くので、胸の中がまた苦しくなってしまい、ビールの苦さが喉に沁みた。

苦さを流すように、もう一口ビールを飲んだ時、テーブル上に置いてあったスマホが震えた。

「あ、万里から連絡きた。皆で引っ越しパーティしようだって」
「あいつら招くの嫌だな」
「はは、そう言わないでよ」

本当に、途方も無い遠回りをしてきたように思えるよ。きっとこれから先、もっと途方も無いことが起きるかもしれない。

それでも、選んだのだ。
君と生きることを。
私達の関係は、ようやく、ここから。

君と、生きていこう。
光の日も、影の日も、共に。

カーテンから漏れる朝日のように、不安定に揺らめくからこそ、美しい日々を。




end