また、ピアノの音が聴こえる。この曲は、なんだっけ。そうだ、お別れの時の定番の……仰げば尊しだ。音大への進学が決まったクラスメイトが、美しい演奏をしてくれたんだ。
高校の卒業式で、この歌を皆で歌ったんだっけ。そうだ、皆でピアノの音色にのせて、探り探り声を出して歌ったんだ。
吉木はもう、そこにはいなくて、私も人との距離を取っていた。あの頃私は、また自ら孤独になろうとしていた。

「詩春、東京の大学に行くんだね。知らなかった」
卒業式が終わり、それぞれ校舎の前で記念撮影をしているとき、万里が寂しそうに私に笑いかけた。私は気まずくなり目をそらして、小さな声でつぶやく。ごめん、万里、言えなくてごめん。
「うん、そんなつもりはなかったんだけど、目的がないから、とりあえず自分が目指せる範囲で一番上に行こうかなって思って……」
「そっか、頑張ってね。東京遊びに行くときに泊めてね」
「うん、いつでも」
いつでも。と言いながら、私は引越し日も伝えていない。目を合わせることができなくて、私は彼女の胸についた、リボンで作られた飾り花を見つめていた。