「サイレントで振るのやめろ」
「だ、だってびっくりさせるからじゃん」
「本当に振られてたのかよ俺」
「ち、違うよ。そうじゃなくて」
 そうじゃなくて、私は、そんなことを言ってもらえる日を夢にすら見てもなかったから。吉木のことが好きなのに、両思いになることをイメージしたことがなかったなんて、君は呆れるだろうか。でも、本当にそうなんだ。ただ思うだけでいいのだと、そういう生き方が染み付いてしまっていたから、こんな予定外の展開に戸惑いを隠せない。
「周りに理解されないで傷つくことが、沢山あるよ……私といたら」
「そんなの親とか地元の奴とか親戚だけだろ」
「いやそこが大部分じゃん。根っこじゃん」
「お前そんなのが人生の根っこなのかよ。くだらない根っこだな」
「私は吉木みたいに図太くないんだよ。分かるでしょ」
 混乱して、思ったよりも強い口調で当たってしまった。そんな私に、吉木は変わらないトーンで問いかける。
「で、お前の気持ちはどうなの?」
 そんなの、山で再会したあの日から答えは出ている。でも、絶対に口にしてはいけない気持ちだと思って生きてきた。
 だって、私は君を好きになっていい立場の人間じゃない。
「好きじゃない。友達でいたい」
 これが本心だったら良かった。そしたら君の幸せを第三者の視点で願えた。もし君と恋人同士になれたら、私が君を幸せにしなければならない。そんなの、怖くて約束できない。

 だって君は、誰よりも幸せになって欲しい人だから。

「好きじゃない。でも幸せになって欲しい。守ってあげたい。吉木がもし悲しい思いをすることがあったら、誰よりも早く駆けつけてあげたい……」
「なにそれ」
「好きじゃ……ないって……言わなきゃなのに」
 いよいよ声が震えた瞬間、吉木に引き寄せられ、彼の胸の中に顔を埋める体勢になった。彼にこんな風に抱き寄せられるのは、学生の頃から数えて三回目だ。吉木のにおいや体温が伝わってきて、驚くほど心が落ち着いていく。
 私は、この人を幸せにできるだろうか。どんなに辛い時も、悲しい時も、そばにいることしかできそうにないよ。上手な励まし方も、愛の表現も、気の利いた褒め方も知らない。
 君が不機嫌な時はきっとすごく不安になるし、私が不機嫌な時は八つ当たりすると思う。いつか、お互いに一緒にいる理由がわからなくなるかもしれない。君を幸せにできないかもしれない。


 それでも君は、私の隣を選んでくれるのか。